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『メディア・リテラシー』講座の開講

アゴラ研究所は、読者サービスとして、無料のヴァーチャル講座『メディア・リテラシー media literacy』を開講します。当講座は、情報社会を生きるために必要なプライマリーな知識である「情報を論理的に検証する知識」を系統的に提供するものです。

しばしば「日本人は論理的な考え方が苦手」と言われるのは、日本の初等教育には、情報伝達のプロセスにおける論理的な思考能力や判断能力を養う【言語技術 language arts】という世界標準の科目が欠如している影響が大きく「言論の府」と呼ばれる国会ですらしばしば【議論 argument】が成立していません。典型的な事例を見てみましょう。

<事例1>参・予算委員会 2021/01/27

蓮舫議員:この二十九人の命、どれだけ無念だったでしょうかね。総理、その重み、分かりますか。

菅義偉内閣総理大臣:そこは大変申し訳ない思いであります。

蓮舫議員:もう少し言葉ありませんか。

菅総理:心から、申し上げましたように、大変申し訳ない思いであります。

蓮舫議員:そんな答弁だから言葉が伝わらないんですよ。そんなメッセージだから国民に危機感が伝わらないんですよ。あなたには総理としての自覚や責任感、それを言葉で伝えようとする、そういう思いはあるんですか。

菅総理:少し失礼じゃないでしょうか。

この一連の展開は、蓮舫議員による一方的な「罵詈雑言」であり「議論」ではありません。蓮舫議員は「思いがないからできない」という精神論に基づく反証不可能な禅問答で菅総理を罵倒しました。もちろん「精神論」は「議論」ではありません。後に別記事で際しく説明しますが、「議論」とは【真 true】であることが立証されている【前提 premise】から、理論的あるいは蓋然的な【推論 inference】に基づいて【結論 conclusion】を導く行為です。蓮舫議員は、この基本を理解していないからこそ、このような単なる【人格攻撃 ad hominem】をあたかも議論であるかのように勘違いし、性懲りもなく国会で怒鳴り続けているのです。もう一つ事例を挙げます。

<事例2>蓮舫議員twitter 2021/05/05

バッハ会長と言い、安倍前総理といい『精神論』に賭けるしかないのでしょうか。 何度でも言います。 精神論で感染症は根絶しません。 アベノマスクや徹底検査しない方針は間違いとの認識で政策を立て直していくしかありません。 今こそ、徹底検査と早期治療のzeroコロナを。

蓮舫議員は、今度は安倍晋三前総理の「菅義偉首相や東京都の小池百合子知事を含め、オールジャパンで対応すれば何とか開催できると思う」という単なる【認識 cognition】を「精神論で感染症を根絶できる」という別の【言説 statement】に勝手に言い換えて非難(これを【ストローマン論証 strawman fallacy】と言います)した上で、「アベノマスクや徹底検査しない方針は間違い」「今こそ、徹底検査と早期治療のzeroコロナを」という単なる認識をドサクサに紛れて根拠なく肯定しています。これも議論とは程遠いもので、何の解決策にもなりません。

さて、このような「ナンチャッテ議論」は、国会ばかりでなく、日本のありとあらゆる情報空間で日常的に見かけることができます。政治討論番組、報道番組、情報番組、ワイドショー、新聞、雑誌、ネットニュース、SNS、ネット掲示板、ヤフコメなどのメディアはもちろんのこと、ビジネス空間や生活空間でも日常茶飯事です。

メディア・リテラシーは、このように私たちに突然襲ってくる【詭弁 sophism】【ポピュリズム populism】【プロパガンダ propaganda】から私たちを守るセキュリティ対策になると同時に、ビジネスや生活において自らの考えが【論理的誤謬 logical fallacy】に陥っていないかを自己チェックする頼もしいツールにもなります。何よりも、日本という国家の主権者であり、日本社会の重要な構成員でもある日本国民が、論理的な見地から日本の政界・経済界の主張の妥当性や蓋然性をチェックすることこそ、停滞している日本の政治・経済を合理的にアップデートする原動力になります。

シラバス

当講座では、以下に示すシラバスに沿う形で説明を進めていきます。

<講座名>メディア・リテラシー

<担当>藤原かずえ(アゴラ研究所フェロー)

<使用言語>日本語。ただし、専門用語には適宜原語(英語・ラテン語等)を付します。

<教科書>本サイトにアップロードされたウェブページ自体が教科書となります。

<参考書>適宜紹介します。

<内容>次の7つとします。

〔1〕イントロダクション

〔2〕メディア・リテラシーの基本概念

〔3〕情報操作と詭弁 ー 論点の誤謬

〔4〕情報操作と詭弁 ー 論拠の誤謬

  • 感情に訴える論証:感情を論拠にする
  • 人格に訴える論証:人格を論拠にする
  • 権威に訴える論証:権威を論拠にする
  • 偶然と必然の誤謬:偶然性と必然性を誤って論拠にする
  • 単純化の誤謬:因果関係を過度に単純化して論拠にする
  • 因果の誤謬:誤った因果関係を論拠にする
  • 確率統計の誤謬:誤った確率論・統計則を論拠にする
  • 仮説設定と類比論証の誤謬:蓋然性を論拠に演繹推論する

〔5〕情報操作と詭弁 ー 論証の誤謬

  • 形式的誤謬:論証の方法が形式的に誤っている
  • 論点欠如:論点が欠如している
  • 論拠欠如:論拠が欠如している
  • 反証不可能論証:反証可能性がない
  • 矛盾と強弁:矛盾した議論を強弁する

〔6〕印象操作とポピュリズム

  • 自己呈示:自己を偶像化して印象操作する
  • 偶像化:自説の賛成論者を偶像化して印象操作する
  • 悪魔化:自説の反対論者を悪魔化して印象操作する
  • ポピュリズム:印象操作により自説に誘導する

〔7〕認知操作とプロパガンダ

  • 認知バイアス:個人の認知における心理学的傾向
  • 記憶バイアス:個人の記憶における心理学的傾向
  • 社会バイアス:集団の認知における心理学的傾向
  • プロパガンダ:心理操作により自説に誘導する

<進め方>本サイトにウェブページの形式でテキストを随時アップロードします。基礎となる〔1〕〔2〕のテキストを先行してアップロード、各論である〔3〕~〔8〕のテキストは順不同で適宜アップロードします。具体的な進め方は次の通りです。

〔1〕は導入部であり、【メディア・リテラシー】の必要性を述べます。

〔2〕では、メディア・リテラシーを学習する上での最も重要な【基本概念】を簡潔に述べます。この基本概念(難しくありません)を十分に理解することによって頭の中が整理され、〔3〕~〔8〕に示す各論をより系統的に理解することができるようになるものと考えます。

意図的に論理的誤謬を発生させる【情報操作 information manipulation】によって自説に誘導する行為を【詭弁 sophism】と言います。〔3〕~〔5〕では、3つの形態(論点の誤り・論拠の誤り・論証の誤り)に分類される約200種類の【論理的誤謬 logical fallacy】について、統一フォーマットで系統的に説明すると同時に、その実際の事例を紹介したいと思います(将来的にはデータベース化を目指します)。

論者に善・悪を割り当てる【印象操作 impressive manipulation】によって自説に誘導するのは【ポピュリズム populism】の常套手段です。〔6〕では【自己呈示 self-presentation】【偶像化 idolization】【悪魔化 demonization】に分類される約30種類の印象操作について、統一フォーマットで系統的に説明すると同時に、その実際の事例を紹介したいと思います。

個人や集団の心理の傾向につけこむ【認知操作 cognitive manipulation】によって自説に誘導する行為は【プロパガンダ propaganda】の常套手段です。〔7〕では、数100種類に及ぶ多数の【認知バイアス cognitive bias】【記憶バイアス memory bias】【社会バイアス social bias】を簡便に紹介するとともに、いくつかの心理操作の内容及び実際の事例を紹介したいと思います。

<到達目標>メディア・リテラシーを発揮して、あらゆるメディア情報に対するファクト・チェックのスキルを身に着けることを目標とします。メディア・リテラシーは知識ですが、個々の知識を詰め込む必要はなく、修得すべきは論理的な考え方です。

<フィールドワーク>各自のビジネス・生活空間におけるメディア・リテラシーの実践的な利用こそ、当講座のフィールドワークに他なりません。

既に当該知識をお持ちの方におかれましても、考えを整理する上での参考資料として、当講座をご利用いただければと思います。このような系統的な取り組みは日本には存在していません。当講座で紹介する内容を皆様のビジネスや生活に有意義にご利用いただければ幸いに存じます。