情報操作と詭弁論拠の誤謬感情に訴える論証虚栄心に訴える論証

虚栄心に訴える論証

Appeal to vanity /Appeal to flattery/ Appeal to pride / Snob appeal

虚栄心を喚起させて論者/論敵の言説を肯定/否定する

<説明>

倫理規範に反した行動をとった場合に発生する感情が【罪悪感 guilt】であるのに対して、倫理規範に従う行動をとった場合に発生する感情が【自尊心 self-esteem】です。これは自分自身の価値観に基づく自分への絶対的評価を誇りに思う感情です。それに対して他人の価値観に基づく相対的評判を誇りに思う感情が【プライド pride】です。

自分に対する自分自身からの内的評価は、主観的ではあるものの、嘘は発生していません。正常な精神の持ち主は、自己分析にあたって自分自身に嘘をつかないからです。このため、自分自身の評価に基づく「自尊心」は、自分を安心させ、自信を持つことができると同時に他人を尊重することにも繋がります。

一方、自分に対する他者からの外的評価は、客観的であるものの、嘘が発生している可能性を否めません。他者が嘘をついていないことを自分では検証できないからです。このため、他人の評判に基づく「プライド」は、自分に不安を与えて、自信をもつことができません。その結果として、【承認欲求 need for approval】が高まり、他者に自分を現実よりも高く評価させたい願望や、他者を貶めて自分の相対的な価値を高めたい願望が生まれます。これが【虚栄心 vanity】という感情です。

虚栄心が強い人は、【劣等感 inferiority complex】が強いため、【見栄 show off】を張り、地位をひけらかし、ブランド品を身に着けて見せびらかすなど、【俗物根性 snob】を露わにして表面上の体裁を追求します。他者よりも優位に立ちたい欲求が強く、会話の多くは【自慢話 boasting】か他人の【悪口 name-calling】です。

なお、能力や経験値が低い人が、自分自身に嘘をついて、自分を現実よりも高く評価することがあります。これは正しい意味における「自尊心」ではなく【ダニング=クルーガー効果 Dunning-Kruger effect】と呼ばれる心理的錯覚現象です。この錯覚は、【無知の知 ipse se nihil scire id unum sciat】を要因とする虚栄心の作用によって発現します。【知ったかぶり know-it-all】を繰り返し、【他責思考 blame-shifting】が強いのが特徴的です。

このような虚栄心の持ち主に対して、虚栄心を満足する【お世辞 flattery】を送ったり【媚 butter up】を売ったりすることで、その言説を操作するのが「虚栄心に訴える論証」です。

虚栄心が強い人にとって都合が悪い存在は、彼らよりも優れている人であり、彼らを批判する人です。彼らはこのような人を誹謗や中傷で徹底的に攻撃します。一方で、虚栄心が強い人にとって都合がよい人は、彼らよりも劣っている人であり、彼らを称賛する人です。彼らを騙す人は、あたかも彼らよりも劣った人であるかのように彼らに近づき、媚びへつらうのです。

誤謬の形式

主張Xは真/偽である。あなたは素晴らしい人であるのでわかることだ。
主張Xを肯定/否定するのは、あなたが素晴らしい人であるからだ。
あなたが素晴らしい人であれば、主張Xを肯定/否定することはできない。

<例>

作家:私を誰だと思っているんだ!ベストセラー作家だぞ!
自動車ディーラー:重々承知していますよ。お金持ちですし。私のような才能のない貧乏人には3度生まれ変わっても手が出ない最高級の外車、いかがですか。
作家:このプラチナカードで買ってやる。

採用面接官:当社を志望した理由を聞かせて下さい。
就職希望者:女性社長がとってもお綺麗で理知的で憧れていました。
女性社長:あなたの採用を決めました。私の眼に間違いはありません。

虚栄心が強い人は、内面で自信を持っていないため、外面では尊大に振舞い、自分をちやほやする相手に褒美を与え、過剰な自己宣伝に利用します。アンデルセン童話の『裸の王様』はその典型です。SNSのエコーチェンバー内のインフルエンサーとその信者のやり取りも「虚栄心に訴える論証」のオンパレードです。信者は恥ずかしげもなくインフルエンサーの他愛もない一挙手一投足を絶賛する投稿を行い、インフルエンサーは恥ずかしげもなくその投稿をリポストするのです(笑)。自尊心が高い人は、内面で自信を持っているため、外面では謙虚に振る舞い、過剰な自己宣伝をしません。

<事例1>安保法制

<事例1>衆・平和安全法制に関する特別委員会 2015/09/08

辻元清美議員(立民):菅官房長官、私は、これは国民の理解が深まる、深まらないという問題ではなく、ここは勇気を出してこの法案を撤回した方がいい。恥ずかしくないですよ。撤回した方が、ああ、安倍政権はよく国民の懸念を理解されているなというように、私は国民の皆さんは納得されると思います。

辻元議員は、根拠を述べることなく、菅官房長官のプライドに訴えかけて法案の撤回を要求しています。法案の可否は法案の合理性によって判断されるものであり、法案賛成者のプライドが試されているわけではありません。いくつかの報道によれば、辻元議員は、政界で「人たらし」と呼ばれているそうです。きっと愛される性格の持ち主なのでしょう。ただ、そのことと法案の可否は無関係です(笑)

<事例2>加計問題

<事例2>参・本会議 2017/06/14

神本美恵子議員(立民):個人の人格を攻撃する総理官邸、それに対して何の言い訳もしなかった前川前文部科学事務次官、どちらの言い分が正しいかは良識ある議員の方だけに御理解いただけると思います。前川氏を慕う若手官僚からだと思いますが、勇気ある内部告発が行われました。

神本議員は、論者の人格を根拠にして物事の真偽を判断する【対人論証 ad hominem】を行っています。「良識ある議員」という言葉で議員の虚栄心をくすぐっています。

<事例3>出羽守

<事例3>参・法務委員会 2018/07/03

有田芳生議員(立民):今年の四月は大阪で、あるいは五月の初めには東京の代々木公園で、東京では東京レインボープライド、そしてパレードが行われました。LGBTの日本における実態、アメリカだったらニューヨークなんかでは百万人の集会が行われるわけですけれども、私、パレードをしていてびっくりしたのは、協賛する団体が一流企業の特に外資系が多かったということにやはりまだまだ日本と海外との差を感じたんですけれども…

有田議員は、外国社会を賛美して日本社会を見下すという俗物根性に訴えています。ただし残念ながら、最近は「外国では…」「おフランスでは…」「東京では…」「六本木では…」「芸能界では…」「AIの世界では…」のように一歩高そうなところから「~では…」を連発する人は「出羽守(でわのかみ)」と呼ばれてバカにされるのが普通です(笑)。