情報操作と詭弁ー論点の誤謬

薫製ニシン

情報操作と詭弁論点の誤謬論点回避立証責任の転嫁

薫製ニシン

Red herring / Ignoratio elenchi

論点とは異なる印象的な話題に誘導して注意をそらすことで論点から逃げる

<説明>

「薫製ニシン」とは、論点から逃避するために使う目くらましの話題のことであり、ショッキングな内容であるほど、カモフラージュの効果は高くなります。「薫製ニシン」の臭いに気を逸らされた猟犬が獲物を取り逃がしたというエピソードが語源となっています。詭弁を使うマニピュレーターは、事前に用意した「薫製ニシン」を意図的に使うことで議論を脱線させます。

誤謬の形式

論者Aが論者Bに不都合な言説SAを主張する
論者Bが言説SAの論点とは異なる言説SBを主張する
言説SAの存在が忘れられる

<例>

<例>

少女A:この前あなた、私にガセネタを流したでしょ。
少女B:そんなことよりも『嵐』が活動休止するんだって~!
少女A:え~うそ~!いつまで活動するの?
少女B:来年の大晦日までだって。どうやら大野君の気持ちが原因みたい。
少女A:え~うそ~!ショック~!解散はしないの?
少女B:さっき知ったばかりなのでわかんない。ごめんね~。
少女A:いえいえ、ありがとう。あなたの情報はいつもためになるわ!

マニピュレーターは日頃から相手がとびつくネタを用意して待っています。与えられた情報に安易にとびつかないことです(笑)

<事例1>ゼロコロナ

<事例1a>衆・予算委員会 2021/02/05

■森友問題が再燃 財務省「特例」発言は?

泉健太議員(立憲民主党):さて、今、立憲民主党が政府に訴えているゼロコロナ戦略について紹介をさせていただきたいと思います。立憲民主党のゼロコロナ戦略、これは、簡単に言えば、感染拡大の繰り返しを防ぐということになります。やはり、これまでの政府の対策を見ていると、一進一退というふうに言わざるを得ないんじゃないでしょうか。このゼロコロナでは、我々は、今回こうして緊急事態宣言で国民の皆さんに御協力いただいているのであれば、この機会にしっかりと患者数を抑えていく、そして医療機関や保健所の負担をしっかり軽減させて、そういう中で、市中にいる方や介護施設、医療機関の方々まで検査を十分にできるようにして、無症状の方までも発見をし療養していただき、そして、最終的にはほぼ感染者がゼロに近づいていく、そういう状態を目指すというのがこのゼロコロナ戦略であります。そこまでいけば、感染拡大の繰り返しというのは起こらなくなります。例えば、台湾、オーストラリア、ニュージーランド、こういうところでは、だからこそ経済を再生させることができているわけですね。(中略)総理、こういうシナリオもある中で、もう一度感染拡大が起こるということを総理は想定しているのか、それとも、それを起こさないということを想定されているのか、どちらですか。

菅義偉内閣総理大臣:これは、世界を見てもやはり周期的にこのコロナが来ているわけでありますから、そういう中で、ワクチン、これは接種も始まりますから、そういう中でそれを抑えていくというのは、これは国の仕事だと思います。

泉議員本当に驚きましたが、改めて、いわゆるウィズコロナという言い方はまだきれいな言い方だと思いますが、あくまで、この新型コロナウイルス、ワクチン、周期的なものであり、これからもずっと日本社会は経済を様々制限しながらこうして過ごしていくということが総理の考え方だということがよく分かりました。我々はその考え方に立ちません。やはり感染対策を万全にする、そのためには、医療をしっかり支援をする、また介護を支援する、そして保健所を支援する、そういう中で、無症状の方に至るまで、しっかりと宿泊療養や自宅療養で回復していただけるようにして、そして患者数がほぼいないという状態を早期につくり上げる、このゼロコロナという考え方を、多くの国民の皆様に更に理解をしていただけるように、これからも訴えを続けていきたいと思います。とにかく、私たちは、国民のことを考えて、これからも訴えていきたいと思います。

新たな変異株が発生すれば、たとえどんなに感染者数を減少させたとしても、新たなコロナの流行が生じることはこの時点で既に判明していました。泉議員は、このような蓋然的な事実を無視して、科学的に極めて妥当な菅首相の判断を否定し、ゼロコロナ政策を進めるよう政府に求めました。その後、ゼロコロナ政策は世界から完全に否定され、泉議員が大絶賛していた台湾・オーストラリア・ニュージーランドもゼロコロナ政策を断念しました。この3国では、免疫が形成されていなかったこともあり、オミクロン株の流行で大量の死者が発生しました。人口当たりの死亡者数もウィズコロナの日本を超えています。このような立憲民主党のゼロコロナ政策に対して、自民党茂木幹事長は次のように批判しています。

<事例1b>朝日新聞 2022/04/16

■自民・茂木氏「立憲の泉代表、他党の批判の前に反省と説明を」

茂木敏充幹事長(自由民主党):日本国内で最初にコロナ感染者が発見されたのが一昨年の1月。あれから2年以上が経つ。2年間の経験を踏まえると、「ゼロコロナ」がいかに非現実的かが明らかになっているのだと思う。立憲民主党の泉健太代表は、他党のことをああだこうだと、いろいろと最近言っているようだ。批判をする前に、自分の党の間違いについて、きちんと反省をし、国民にも説明をすべきではないか。他人の批判ばかりして全く建設的な意見を言わない

仮に日本が立憲民主党の主張通りにゼロコロナ政策を行っていた場合、経済を無駄に破壊して日本国民と日本企業を窮地に追い込んだことは自明ですが、この茂木幹事長の批判に対して、その後立憲民主党の代表に就任した泉議員は次のように非難しました。

<事例1c>NHK 2022/04/18

■立民 泉代表 自民幹事長の批判に反論「意味が分からない」

立憲民主党の泉代表は、党の新型コロナ対策を自民党の茂木幹事長が批判したことについて、「自分たちが経済対策を十分に打てないことを反省していただきたい」と反論しました。

自民党の茂木幹事長は16日、立憲民主党の新型コロナ対策を非現実的だと批判し「泉代表は、間違いを反省し、国民に説明すべきで、批判ばかりで建設的な意見を言わないから、党の支持率が低迷するのではないか」と述べました。

泉氏は、18日開かれた党の執行役員会で「政権を運営できない野党に反省を求めるのは、さっぱり意味が分からない。自分たちが政治をしっかり動かせないこと、経済対策を十分に打てないことを反省していただきたい」と反論しました。

そして「政府の経済対策は小規模で、国民に届かないものになりそうで、茂木氏もいらだちが出てきているのではないか。国民のための政治に早く転換していきたいと思うが自民党が政権を担っている間は茂木氏にもう少し働いてもらいたい」と述べました。

この発言は、茂木幹事長の批判に対して論理的に反論したものではなく、「経済対策」という「薫製ニシン」を使って「ゼロコロナ政策の可否」という論点から逃げたものです。国民を不必要に自粛させて経済的自由を制限するゼロコロナ政策を提案した立憲民主党には、世界のゼロコロナ政策が破綻していることについて説明する責任があります。【立証責任の転嫁】で示した通り、たとえ野党であろうと、他者の権利を制限する提案には説明責任があるのです。茂木幹事長は、逆ギレした泉代表に対して、次のように批判しました。

<事例1d>NHK 2022/05/15

■自民 茂木幹事長 “『ゼロコロナ』は中国と北朝鮮と立民だけ”

自民党の茂木幹事長は、水戸市で講演し、新型コロナ対応をめぐり「どうにか全国レベルの感染状況は落ち着きを見せている。これまでの経験や知見を踏まえると、治療薬やワクチンを確保し、地域の医療体制も充実させながら『ウィズコロナ』のもと経済社会活動や日常生活を取り戻していくことに尽きる」と指摘しました。

そのうえで「どう考えても『ゼロコロナ』は現実的ではなく『ゼロコロナ』をやっているのは、中国、北朝鮮、そしてわが国の立憲民主党だけだ。政策は、現実的に進めていかなければならない」と述べ、立憲民主党の新型コロナ政策を批判しました。

この茂木幹事長の批判に対して、泉代表は次のように発言しています。

<事例1e>泉健太議員twitter 2022/05/15

茂木幹事長には、正しい情報が集まらないのでしょうか…。 立憲と台湾は基本的に同じゼロコロナ政策。よってオミクロン株の国内流入以降は変更しています。 なので中国や北朝鮮とは全く違うのですが。自民党幹事長の情報収集力が心配です。

この意味不明な発言も明らかに論点逃避です。立憲民主党がゼロコロナ政策を変更したなどという説明は国会質疑に登場しません。まさに国民を愚弄する無責任発言です。

<事例2>「旧統一教会と自民党の関係」報道

<事例2a>朝日新聞 2022/07/22

■(社説)旧統一教会 政治との関わり解明を

安倍元首相を銃撃した容疑者の動機や背景が、徐々に明らかになってきている。母親が宗教団体に巨額の献金をしたことで人生を狂わされ、教団の「シンパの一人」と位置づけた安倍氏に矛先を向けたようだ。

身勝手な言い分であり、到底許される行いではない。だが、この宗教団体・世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の活動はかねて問題視され、被害者は多数にのぼる。凶行に至る経緯とともに、教団と政治とのかかわりを解明して、今後の対策につなげなければならない。

教団は、日本では1960年代から独自の教義を掲げて信者を増やし、反共産主義を唱える政治組織・国際勝共連合とともに勢力を広げた。80年代以降、霊感商法や合同結婚式への批判が高まり、安倍政権下の7年前、名称変更の申請が文化庁に認められた。

元信者らが起こした民事裁判では、教団側の非を認める判決が30件以上言い渡されている。正体を隠しての勧誘や、判断力を失わせて高額のつぼや印鑑などを売りつけるやり方が違法とされ、特定商取引法違反で有罪となった関係者も多い。

全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、確認できた金銭被害は昨年までの約35年間で総額1237億円を超す。それでも氷山の一角に過ぎないという。

教団の伸長を支えた大きな要因として、連絡会が挙げるのが政治家の存在だ。

教団が関連する集会に参加したり、祝辞を寄せたりする。それが「お墨付き」となり、人々が信頼し、被害が広がる――。

朝日新聞は、挙証責任を果たすことなくテロの原因として自民党の責任追及を始めました。「旧統一教会」という強力な悪印象を持つ「薫製ニシン」を使って、山上容疑者の「身勝手な言い分」から国民の目を逸らしたのです。

<事例2b>朝日新聞 2022/08/03

■(社説)旧統一教会 自民は実態調べ決別を

国民の暮らしを守るべき政治家が、霊感商法や高額な献金が社会問題となっている教団の活動に、お墨付きを与えるようなことはあってはならない。

岸信介元首相以来の付き合いといわれ、歴代の党幹部や派閥のトップが関わりを持ってきた自民党の責任はとりわけ重い。「議員個人の問題」と矮小(わいしょう)化することは許されない。党として実態を調査し、この機会に教団との決別を明確にすべきだ。

(中略)

あきれた発言は、別の党幹部からもあった。福田達夫総務会長の「何が問題か分からない」である。福田氏は「問題」を、教団の影響力で政治が動かされることととらえ、それは「一切ない」と語った。

暗殺事件の論点から逃避する朝日新聞は「何が問題か分からない」とする自民党の福田議員の発言を「あきれた発言」と非難して「薫製ニシン」としました。何が問題であるかの挙証責任があるのは追及側の朝日新聞ですが、朝日新聞はその挙証責任を当然のことのように被追及側に転嫁しています。まさにモリカケと同じ構図です。

<事例2c>朝日新聞 2022/08/09

■(社説)旧統一教会 名称変更の経緯 解明を

「世界平和統一家庭連合」をめぐって、様々な疑念が持ちあがっている。安倍政権下の7年前に、旧統一教会から名称が変わった経緯もそのひとつだ。

変更後、統一教会と同じ団体とは知らずに高額献金に応じた人も多数いるとみられ、霊感商法問題などに取り組んできた弁護士らは、被害の存続・拡大につながったと指摘する。

(中略)

政治の力が介在したのではないかとの疑いがくすぶる。

「名称変更」も「薫製ニシン」です。この経緯の解明をするにあたっても、挙証責任は朝日新聞にあります。国会議員には国政調査権がありますが、これを被追及側に行使させるのは【悪魔の証明 probatio diabolica】です。また、疑いを根拠に批判するのは【魔女狩り witch-hunt】に他なりません。

<事例2d>朝日新聞 2022/08/20

■(社説)自民党と教団 これでは不信は断てぬ

岸田内閣と自民党は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を本心から反省し、今後断ち切るつもりがあるのか。個々の政治家に対応を任せきりの岸田首相から、その覚悟はうかがえない。積年のウミを出しきり、教団と決別できなければ、政治への信頼回復は厳しいと知るべきだ。

先週発足した第2次岸田改造内閣で、閣僚や副大臣、政務官と教団との接点が次々と明らかになっている。首相は、教団との関係を「厳正に見直す」と約束した者のみを起用したと強調するが、それぞれの釈明を聞く限り、その場しのぎの口約束に終わらないか懸念される。

罪もない旧統一教会の信者に対して、政治家が政策を説くのは何の問題もない行為です。この行為を否定し、教団との決別を強制する朝日新聞は、信教で人を差別しています。また、朝日新聞は証拠のない「疑惑」を「薫製ニシン」にしています。「不信を立てぬ」は朝日新聞の認識であり、論拠にはなりません。ちなみに、朝日新聞の考え方に従えば、故人である安倍氏の不信が断てない場合には、安倍氏の存在が山上容疑者のテロの根拠となり、安倍氏の暗殺は自業自得ということになります。疑惑を根拠に断罪するマスメディアは暗黙にテロを肯定しているのです。

<事例2e>朝日新聞 2022/08/28

■(社説)安倍氏「国葬」 疑問は膨らむばかりだ

安倍氏は憲政史上最長の8年8カ月間、首相を務めた。だがその政策の評価はいまだ定まらず、「モリカケ桜」では政権を私物化した疑惑がぬぐえない。加えて、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関係も明らかになってきている。

(中略)

首相は、教団と関係を持たないことを自民党のガバナンスコードに盛り込み、チェック体制を強化すると表明した。であれば安倍氏についても調査を尽くし、明らかにするのが当然ではないか。その作業抜きに「国民の皆さんの不信を払拭する」といっても説得力を欠く。

これも「疑惑」を「薫製ニシン」にしています。モリカケと同じ悪魔の証明なので、証明は不可能であり、朝日新聞が勝手に認識した疑惑を解消することは論理的に不可能です。つまり、朝日新聞にとってこのネタは「疑惑はさらに深まった」という結論を必ず得ることができる無敵の道具なのです。

<事例2f>朝日新聞 2022/09/01

■(社説)「国葬」・教団 信頼回復 言葉だけでは

極めて異例となる安倍元首相の「国葬」は、決めた本人が国会できちんと説明する。

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係は、所属議員それぞれに対応をゆだねるのではなく、党が責任を持ってチェックし、関係を断たせる

こんな当たり前の判断に1カ月半もかかるとは、岸田首相は世論を甘く見ていたというほかない。この間に失われた信頼は大きく、納得のいく説明と確実な実行を伴わなければ、回復は容易ではないと知るべきだ。

(中略)

教団に対しては、「党の方針として関係を断つよう、所属国会議員に徹底する」と述べ、遅ればせながら、党が前面に出る考えを示した。ただ、これまでの長く深いつながりを考えれば、号令ひとつで片がつくとは思えない。何より、過去の徹底した検証と、真摯な反省が前提になければならない。

朝日新聞は自民党に所属議員の思想調査を行うよう命令しています。日本は、強大な私的権力を持つ思想警察といえるマスメディアが監視する警察国家と化しています。

<事例2c>朝日新聞 2022/09/09

■(社説)「国葬」国会質疑 首相の説明 納得に遠く

安倍元首相の「国葬」を表明した記者会見から約2カ月。岸田首相による国会での説明がようやく実現したが、その中身は従来の焼き直しがほとんどで、数々の疑問や懸念に率直に答え、納得を得るには程遠かった。このままでは、国葬とは名ばかりで、社会に亀裂を残したままの実施になりかねない。

首相がきのう、衆参両院の議院運営委員会の閉会中審査に出席し、質疑に応じた。報道各社の世論調査で、国葬への反対論が強まり、内閣支持率も下落するなか、追い込まれた末の対応であり、この間、説明責任から逃げ続けた姿勢がまず、厳しく問われねばならない。

(中略)

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と深いつながりのあった安倍氏の国葬が、教団の活動の是認につながらないかという指摘もあった。首相は、教団と関係を絶つという自民党の方針を強調する一方で、安倍氏が亡くなった今、両者の関係の把握には「限界がある」と、調査には相変わらず後ろ向きだった。こんな通り一遍の説明で、根深い不信が解けるわけがない。

「旧統一教会」と並び「国葬」も「薫製ニシン」です。日本国民は、山上容疑者が安倍氏を暗殺したことを忘れ、旧統一教会の関連団体である国際NGOの会合で講演した安倍氏とその国葬を行う自民党をひたすら憎んでいます。もはや日本はオーウェル『1984』が描いた思想警察が暗躍する全体主義国家とよく似ています。