罪悪感に訴える論証
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Appeal to guilt
罪悪感を喚起させて論者/論敵の言説を肯定/否定する
<説明>
倫理規範に反した行動をとった場合に生じる感情として【罪悪感 guilt】があります。悪意のマニピュレーターは、しばしば論敵の行動の一部を歪めて、倫理規範に違反しているかのように主張することで、論敵に対して不当な罪悪感を与えて要求します。しばしばこの要求は人格を否定する脅しとなることがあり、これを【感情的恐喝 emotional blackmail】と言います。さらには、第三者に対して論敵に味方することに不当な罪悪感を与えて論敵を攻撃させます。罪悪感に訴える論証は【犬笛 dog whistle】の主要なメカニズムでもあります。
近年の日本のテレビ報道やSNSでは、この罪悪感に訴える論証が蔓延しています。特にありがちなのが、自分の行動を棚に上げてダブルスタンダードを犯しながら相手の軽微な規範違反行為を過剰に問題視し、その言説をヒステリックに否定するものです。罪悪感に訴える論証を使うマニピュレーターの典型的な特徴は、何でも人のせいにする【他責 blaming others】を常套手段とすることです。論敵の行動に対し、自分が被害者を装う、あるいは都合のよい被害者を造ってその味方を装うことで、論敵に不合理な罪悪感をもたせて要求します。
「罪悪感に訴える論証」は、合理的な議論ができない人物が頻繁に使う誤謬です。SNSでは、エコーチェンバーの悪意あるインフルエンサーが、論敵を不当に貶めた上で従順な信者に犬笛で呼びかけて攻撃させるような事案が散見されます。「罪悪感に訴える論証」はネットリンチの口実として頻繁に利用されているのです。
誤謬の形式
主張Xは真/偽である。罪悪感があればわかることだ。
主張Xを肯定/否定するのは、罪悪感がないからだ。
罪悪感があれば、主張Xを肯定/否定することはできない。
<例>
A:三食食べられずに経済的に苦しんでいる人がいるのに増税するのか?
B:インフレで国民が生活に困っているのに政府は減税しないのか?
C:スパイ防止法に反対する奴は非国民だ
罪悪感に訴える論証でありがちなのが、複合的な考察が必要な問題を短絡的に捉えることで、論敵の【総合判断 synthetic judgment】を断罪することです。例えばAのケースでは、マクロ政策によって不利益を得るミクロな弱者の存在を根拠に断罪していますが、ミクロな対処は別途議論することが必要です。Bのケースでは、減税をインフレ対策の絶対要件としていますが、減税はむしろ更なる需要を喚起し、インフレを加速させます。Cのケースでは、スパイ防止法の可否はそのスペックによるので、反対者を非国民と断罪するのは短絡的です。もちろん「スパイ防止法に賛成するのは軍国主義者だ」とするのも罪悪感に訴える論証に他なりません。
D:お前は社会のためにこんなに頑張っている私たちを批判するのか?
E:あいつは組織をやめた。お前はあんな裏切り者の肩を持つのか?
F:あいつは中国と繋がっている。お前はあんな国賊に手を貸すのか?
G:あいつは金に汚い。お前はあんな守銭奴にへつらうのか?
H:あいつは人間の屑だ。お前はあいつのポチに成り下がるのか?
I:あいつは恩を仇で返した。お前はあんな恩知らずに味方するのか?
これらは非常にありがちな論敵の悪魔化であり、悪魔に手を貸す者は罪深いとする感情的恐喝です。カルトが思考停止した信者に対して多用するフレーズです。
<事例1>高齢者を殺す気ですか?
<事例1>スポニチアネックス 2025/07/08
山本太郎氏 国民・玉木代表の社会保障改革案に猛反発「高齢者が甘やかされているなんて印象操作やめて」
れいわ新選組の山本太郎代表が6日、NHK「日曜討論」(日曜前9・00)に生出演し、社会保障制度を巡り国民民主党の玉木雄一郎代表の提案に猛反発する場面があった。
参院選(20日投開票)を前に、与野党10党の党首、代表がさまざまなテーマに論戦を繰り広げた。
社会保障制度改革では、玉木氏が所得基準ではなく、資産基準での窓口負担案に言及。75歳以上の後期高齢者が原則1割負担であることについて、「ぜひお願いしたいんですけど、原則2割にして、現役並みの所得、資産のある方には3割ご負担いただく。政治が堂々とやらない限り、若い人の負担を減らすことはできない」と述べた。
すると、山本氏は「高齢者の5人に1人は貧困なんですよ?」と疑問を口に。「応分というか、持っているものに合わせて窓口負担を増やすと。今どうなっているかというと、(年収が)200万くらいの話です。200万くらいでも、窓口負担が増えちゃうんですよ?殺す気ですか?」と、強い語気で訴えた。
社会保険料の上昇が、高齢者を支える現役世代の家計を圧迫し、その可処分所得を大きく低下させています。もし高齢者の5人に1人が貧困なのであれば、別途貧困対策するのが合理的であり、そのことが高齢者全員を医療費1割負担にする理由にはなりません。「殺す気ですか」という強い語気の発言は、典型的な感情的恐喝です。
<事例2>被災地での衆院選挙
<事例2>TBS『サンデーモーニング』 2024/10/06
安田菜津紀氏:「ルールを守る自民党」ということが掲げられていたと思うが、結局直前に掲げていることも守れないということが露呈した一週間だった。特に、能登の被災地では、選挙やその準備どころではないかという声が次々と上がっている中で、補正予算もつけないまま今解散しなければならない理由は、結局党利党略とか、自民党に有利かどうかとか理由がないところだ。結局こうして被災地も切り捨てるし、前言はコロっと覆してしまうし、ウソとか切り捨てを厭わないのであれば、裏金にまみれていた頃と何が違うのかが問われるし、そもそも裏金の使い道とか、何で使われたのか定かではない中で本当にフェアな選挙ってできるのだろうかというところも疑問だ。
これは、被災者の存在を不合理に利用して政府に罪悪感を与えることで、衆院選挙を取りやめるよう政治的要求を行ったものです。
現実に選挙の実施が可能であるにも関わらず、自然災害を理由に選挙の延期を求めるのは、左翼言論人が日頃ヒステリックに反対している緊急事態条項の乱用そのものです。この段階で能登半島における行政は機能しており、市民にとっても行政にとっても選挙のコストは大きな負担ではありませんでした。むしろ住民にとって、復興に対する政策を争点にした選挙を実施したことには、大きなメリットがあったものと考えられます。
また、この段階で政府は能登半島の復興に補正予算を付けていませんでしたが、補正予算に相当する予備費を積極的に計上していました。むしろ、国会の承認が必要な補正予算よりも、行政の判断で処理可能な予備費の方が、復旧・復興に向けて迅速かつパワフルに利用可能であることは、行政の常識です。
また、「裏金」と呼ばれている政治資金の不記載分については、既に政治資金収支報告書に訂正されて記載されています。不記載分が裏金として使われた可能性も今後使われる可能性もゼロです。政治資金の支出内容は、必ず政治資金収支報告書に記載されることになります。
