情報操作と詭弁ー論点の誤謬

極端に訴える論証

情報操作と詭弁論点の誤謬論点隠蔽極端に訴える論証

極端に訴える論証

Appeal to extremes

現実的な制約条件を隠して極端な議論を展開する

<説明>

ある前提から結論を得るときに、現実世界に存在する通常の制約条件下で得られる結論と現実世界では存在しない極端な制約条件下で得られる結論が異なる場合があります。このような場合に現実的な制約条件を隠蔽し、自分に都合のよい極端な制約条件下で結論を得るのがこの論証です。

誤謬の形式

もし通常の条件下で前提Pから結論Qが得られるならば、極端な条件下でも前提Pから結論Qが得られる。

<例>

<例>

:お母さん、温泉に2時間浸かっていたら頭がボーっとしてきた。
母親:のぼせたのよ。体に悪いわよ。
:え~? 温泉は体に良いからゆっくりと浸かりなさいって言ったじゃない。

10分から20分程度の入浴の場合、疲労回復などの体に良い効果が期待されますが、長時間の入浴の場合には体への負担が大きくなり、脱水症状など体に悪い効果が出る可能性が高まります。このように、通常の制約条件を暗黙の前提とするのではなく、極端な制約条件を前提として不合理な結論を得るのが「極端に訴える論証」です。

<事例1>福島第一原発の処理水は普通の原発処理水と違う

<事例>TBS『サンデーモーニング』松原耕二氏 2023/09/03

松原耕二氏:普通の原発が海に流しているものと(福島第一原発の)処理水は全く違う水だ。普通の原発が流す水はトリチウムだけが入っている。今の処理水は燃料デブリに直接あたっているので、トリチウムだけでなく、セシウムとかストロンチウムとかいろんな放射性物質が入っている。これは明らかに違う。日本はそちらに意識がいかないようにトリチウム、トリチウムへもって行くように見える。やっぱり、他の放射性物質についても安全なら安全だと積極的に説明してデータを開示することがやっぱり信頼に繋がる。

松原氏は、燃料デブリに触れた福島第一原発の処理水は、デブリから供給される放射性物質が含まれるという点で普通の原発の処理水とは違うとして、その危険性を訴えましたが、セシウムやストロンチウム等のトリチウム以外の放射性物質は処理水の段階で告示濃度未満まで除去されています。この処理水が100倍以上薄められて放出され、さらに海水で薄められるのです。つまり、トリチウム以外の放射性物質については、人体への安全性を保障する環境基準をクリアしているという点で、福島第一原発の処理水は、普通の原発が流す処理水とまったく同じです。もしも告示濃度未満の有害物質が存在することを危険視するのであれば、水道水はもちろんのこと、市販されているミネラルウォーターも危険です。松原氏は、海洋中に拡散する有害物質が告示濃度以上に濃縮するという物理的にありえない制約条件(フィックの法則によって証明可)を設定して、処理水の海洋放出を危険視したのです。

<事例2>オスプレイの価格は15万円

<事例2>2019政治決戦必勝!総決起大会 2019/03/02

川内博史議員(立民):オスプレイは重さ15トンなんですが、オーストラリアで鉄1トン買うと1万円です。それが15トンですから、本当は15万円ですよ。いろいろ加工して人手がかかっているからいくらかは付加価値がつくかも知れないけど15トンの鉄の塊は15万円なんです。それがなんで2百億にもなるのと。どこがどうなったら2百億になるんですか。全部みなさんに請求書が回るんです。

一般に、製品の製造費には、製造原価・販売費・一般管理費が必要となります。そのそれぞれの原価には材料費・労務費・製造経費が発生します。オスプレイのような科学のステート・オブ・ジ・アーツを結集した少数限定販売の製品の製造には、研究・開発費を中心とする莫大な一般管理費が発生するために、素材に関わる費用は全体費用と比較して極僅かとなります。川内議員は、このような制約条件を無視し、素材(しかも鉄のみ)に関わる費用のみがオスプレイの価格を構成するという極端な制約条件を基に自説を展開したのです。