The half truth
自説に好都合な事実だけを説明することで不都合な事実を隠す
<説明>
「半分真実」は、自説に好都合な情報のみを一方的に与えて自説に不都合な情報を隠すことで、自説に好都合な意思決定をするよう人を操作する「チェリー・ピッキング」の一種であり、結論を導くにあたって有意でない事実を確信的に提示して有意な事実を確信的に提示しない場合を言います。
論者Aの主張を弱く肯定する事実FAと強く否定する事実FBが存在する。
論者Aは事実FBに触れず、事実FAのみを提示する。
情報受信者は事実FAのみに基づいて論者Aに都合がよい意思決定に至る。
<例>
<例>
プロ野球ファンのAさん:B選手は、今日もまたホームランを打った。今年はホームラン王のタイトルをとる可能性があるね。
Aさんの言う「今日」がシーズン序盤の4月下旬で、B選手が既にホームランを10本打っている場合には、ホームラン王のタイトルを取ることが大いに期待できます。しかしながら、Aさんの言う「今日」がシーズン終盤の10月初旬で、B選手が打ったホームラン数が合計で2本の場合には、ホームラン王のタイトルを取ることは絶望的です。いずれの場合についても言説に嘘はないのですが、後者の場合については、帰納推論を行うにあたって決定的に有意な情報を確信的に隠しています。これが「半分真実」です。
<事例1>集団的自衛権の発動要件
<事例1>TBSテレビ『NEWS23』2014/07/01
膳場貴子氏:では、いただいたツイッターです。「戦争はしませんって言ってるじゃん。攻められた時の自衛だって言ってるじゃん。戦争するための法律じゃないでしょ。」
岸井成格氏:こういう誤解が非常に多いんですよね。一言、言っておきますと、言葉が自衛権だから紛らわしいですけれど、日本が攻められたり、脅威にさらされたときは個別自衛権と日米安保条約で日米共同対処です。あくまでも集団的自衛権は「他国が攻められた時」。そのことを誤解している人がたくさんいるんですね。
『NEWS23』は「安保法制は戦争をするための法律ではない」とする視聴者の意見に対して、集団的自衛権は「他国が攻められた時」のものであり、この意見を「誤解」と断定しました。しかしながら、この説明は不十分です。政府が示した集団的自衛権の発動要件は「他国が攻められた時」ではなく、「他国が攻められて、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない時」です。『NEWS23』は自説に都合がよい発動要件の一部だけを切り取ることで、実質的に攻められた時の自衛である集団的自衛権があたかも他国のための防衛を目的としているかのように認知操作したのです。
<事例2>大阪府知事選挙への女性参入のハードル
<事例2a>大阪府知事選挙落選会見 2023/04/09
谷口真由美氏:当選した首長は全員男性だった。これがやっぱり、日本の首長選挙に女性が出ることの難しさを物語っている。「女性でも実力があったらなれる」と相対化されることが多い。実はそれは傾斜がかかっている。どうしても男性社会の中、男性型の選挙の戦い方の中で女性がそこに参入して行かなければいけないハードルは凄くたくさんある。
大阪府知事に立候補して落選した谷口真由美氏は、当日に当選した主張が全員男性であったことを根拠に「男性型の選挙に女性が参入するハードルは高い」と会見で主張しました。谷口氏は紛れもない真実を根拠としていますが、結論を導くにあたって重要となる別の真実を語っていません。それは、女性として大阪府知事を2期8年務めた太田房江氏の存在です。また、東京都では小池百合子氏が女性として知事を2期務めています。さらに2023年統一地方選においては、男性議員の当選率73.4%に対して女性議員の当選率は64.6%と、1割程度の差は存在するものの「ハードル」というほどの圧倒的な差は存在しません。あえて言わせていただくと、女性のステレオタイプを勝手に形成して選挙戦に散々利用した上で、その女性という属性を選挙戦敗北の根拠にするのは、同じ女性として残念に思います。