情報操作と詭弁ー論点の誤謬

質問の言い換え

情報操作と詭弁論点の誤謬論点回避質問の言い換え

質問の言い換え

Rephrasing the question

質問を都合よく言い換えて回答することで論点から逃げる

<説明>

「質問の言い換え」は、質疑応答において自分に不都合な質問から逃げるため、論点を勝手に換えて質問に答えるものです。狡猾なマニピュレーターは、質問に答えるための前提を説明しているかのように偽って話を続け、最後まで問われた質問に答えません。

誤謬の形式

論者Aが論者Bに質問QAをする。
論者Bが質問QAの論点を内包しない質問QBに対して回答する。
論者Bにとって都合が悪い質問QAの存在が忘れられる

<例>

<例1>

男性:僕と結婚していただけませんか?
女性:友達としては好きだけど。

これは鉄板の質問の言い換えです。男性は「友達として好きかどうか」など聞いていません(笑)

<例2>

未成年:煙草下さい。
コンビニ店員:年齢はおいくつですか?
未成年:大丈夫です。

これもありがちな質問の言い換えです。唐突に「大丈夫かどうか」はコンビニの店員が判断することです。

<事例1>二重国籍疑惑

<事例1>読売テレビ『ウェークアップ!ぷらす』2017/01/30

辛坊治郎氏:週刊誌やネット等の噂で、二重国籍で台湾籍をお持ちなんじゃないのかという話があります。これについては?

蓮舫議員:あの~今そういう噂が流布されるの、本当に正直悲しいんです。国連の男女差別撤廃条約を日本が批准をして唯一改正したのが国籍法ですから…

辛坊氏:これ、一言なんです。これ、一言「違う」というならそれだけの話なんです。

蓮舫議員:私は生まれた時から日本人です。

辛坊氏:日本国籍で。今、台湾籍は?

蓮舫議員:籍を抜いています。

辛坊氏:いつですか?

蓮舫議員:高校3年で、18歳で、日本人を選びました。

辛坊氏:わかりました。これについてはデマだとお伝えしておきたいと思います。

民進党の党首候補の蓮舫議員は、辛坊治郎氏に国会議員の資格に関わる「二重国籍疑惑の真偽」を質問されましたが、この質問とは無関係な「国連の男女差別撤廃条約」についていきなり語り始めました。辛坊氏はこれを遮り、今度は「二重国籍疑惑が違うか否か」を質問しましたが、蓮舫議員は「私は生まれた時から日本人です」と答えました。二重国籍疑惑とは国籍を二つ持っているか否かであるので、この回答も質問に答えていません。そこで、辛坊氏は台湾籍の有無を聞くと、蓮舫議員は「籍を抜いている」と回答しました。この回答が真実であれば、蓮舫議員は二重国籍ではないことになりますが、これは真実ではなく、デマだったのです。

<事例2>原発事故の除染廃棄物

<事例2>小泉大臣会見(福島) 2019/09/17

記者:大熊町にとっても双葉町にとっても中間貯蔵施設に含まれる除染廃棄物の県外での2045年3月までに県外で最終処分するということは大きな復興にとっても課題だと思っていますが、その最終処分場の検討がまだ進んでいないというその現状、見通しにつきまして小泉大臣の見解をいただきたいと思います。

小泉進次郎環境大臣:私はこれは福島県民の皆様との約束だと思っています。その約束は守るためにあるものです。全力を尽くします。

記者:具体的に何かこう今しようと思っているのかどうか?

小泉大臣:私の中で30年後を考えた時に、30年後の自分は何歳かなと。あの発災直後から考えていました。だからこそ私は健康でいられれば、その30年後の約束を守れるかどうかという、そこの節目を私は見届けることができる可能性のある政治家だと思います。だからこそ果たせる責任もあると思うので、その思いがなければ双葉未来学園の取り組みも、私は取り組んでいません。

福島第一原発事故の除染廃棄物に関して、記者から処理の見通しを聞かれた小泉進次郎環境大臣は「全力を尽くします」と回答しました。大臣が問題の解決に全力を尽くすのは当然のことであり、これは質問に対する回答になっていません。記者は質問をし直し「具体的に何をするのか」を問いましたが、小泉大臣は質問には回答しませんでした。

<事例3>COP25

<事例3a>国連・環境関連会議 2019/09/22

記者:Coal is a major source of electricity in Japan. Coal is a major source of global warming. What will your ministry be doing in the next 6 to 12 months to transition away from coal? (日本において石炭火力は主電源の一つです。石炭は地球温暖化の主たる発生源でもあります。これから半年から1年で脱石炭発電について環境省では何をするつもりですか?)

小泉進次郎環境大臣:Reduce it.(石炭発電を削減する)

記者:How?(どのようにして?)

小泉大臣:I just became a minister last week, and I’m discussing with my colleagues and staff from ministry, and we have said as a government, not just as the ministry of environment, that we are going to reduce it. (私は先週大臣になったばかりで、現在は省内で議論中です。削減しようとしていると言っているのは省としての見解で大臣としての見解ではない)

ニューヨークで開催されたCOP25に参加した小泉進次郎環境大臣は、記者会見において「脱石炭発電について何をするのか」を質問され、「石炭発電を削減する」と回答しました。これは質問に対する回答になっていません。記者は「どのようにして?」と聞き直しましたが、小泉大臣は「石炭発電を削減する方針は環境省の見解であり、大臣の見解ではない」として、質問には回答しませんでした。

<事例3b>小泉大臣ぶらさがり会見(ニューヨーク) 2019/09/22

小泉進次郎大臣:やっぱりステーキ食べたいですね。

記者:ステーキはいつ食べるのですか?

小泉大臣:毎日でも食べたいね。

記者から「ニューヨークで何を食べたいのか」というどうでもいいことを聞かれた小泉進次郎環境大臣は「ステーキを毎日食べたい」と回答しました。その日、早速ステーキのレストランを訪れた小泉大臣は、食後に記者と次のような質疑応答を交わしました。

<事例3c>小泉大臣ぶらさがり会見(ニューヨーク) 2019/09/22

記者:(温室効果ガスの18%を畜産業が排出していることを踏まえて)ステーキと地球温暖化について大臣としての考え方は?

小泉大臣:私は、いま質問されてありがたいなと思ったのは、こうやってステーキと気候変動、この質問って今までなかったと思いませんか。なので、これがまずニュースになるんだったら、それだけでも日本の中で環境問題っていうのを考えるいいきっかけになるなと思いますね。

記者:温室効果ガスを削減するという環境省のトップとしてどういうふうにお考えですか?毎日でも食べたいとおっしゃっていたことと…

小泉大臣:毎日でも食べたいということは毎日でも食べているというわけではないです。でも、好きなもの食べたいことありません?

記者:そういうことを聞いているのではなく、環境大臣としての整理のことをどういう感じで考えられているのか?

小泉大臣:じゃあ、みんなにばれないようにステーキを食べている方が嘘くさくないですか?

メタンで構成される牛のゲップは温室効果ガスの一つですが、環境大臣が牛を食した直後のぶら下がり会見でこの問題について記者が問うのは極めて非常識でアンフェアです。

食に関わる環境問題は、経済や文化を含めた論理的かつ倫理的な総合判断が必要な問題であり、一環境大臣が軽々に回答できるような分析判断の問題でないことは自明です。もし、記者がこの問題を問うのであれば、本省での会見で問うのが妥当であり、海外のぶら下がり会見の場で問うこと自体が極めて非常識と言えます。しかも「毎日でも食べたい」という個人の嗜好を根拠に、環境大臣としての倫理を問うかのような姿勢は極めてアンフェアです。

そのような極めて非常識でアンフェアな質問に対し、言質を取られないように質問を言い換えて回答する小泉大臣は涙ぐましいとも言えますが、ここは毅然とした態度で、その質問には簡単に答えることができないことを宣言するのが妥当でした。