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Fallacy of extension / Stretching the Truth / Overstatement
自説に都合よく事実を誇張して前提にする
<説明>
「誇張の誤謬」とは、自説に都合よく事実を誇張して前提にするという論点歪曲の誤謬です。詭弁を使うマニピュレーターは、前提を意図的に歪曲することで自分にとって好都合な結論を導きます。
事実Fが存在する。
Aが事実Fを誇張し事実F’を偽造する。
Aが偽の事実F’を前提にして自説に都合のよい偽の結論C’を導く。
<例>
A:このダイエットサプリには「すぐに効果があって痩せられた」という皆様からの絶賛の声が続々と寄せられています。
B:すご~い!絶対欲し~い!でもお値段は高いんでしょ?
A:今から30分以内にお電話いただければ、なんと5割引きで提供いたします。ただし、お客様1人1瓶までとさせていただきます。さらに本日に限り、もう1瓶を無料でプレゼントさせていただきます。
B:え~!私もすぐに電話しなくちゃ!
A:フリーダイヤルは0120の…
ツッコミどころ満載なテレビショッピングのベタなやり取りにおいて、最も注意すべきポイントは、「すぐに効果があって痩せられた」という絶賛の声は「個人の感想」であり、誇張が含まれている可能性があるということです。さらには「絶賛の声が続々寄せられている」という文言にも誇張が含まれている可能性があります。
一般に誇張には2つのパターンがあります。1つは事物の定量的な「数」を事実よりも多く示す誇張であり、これは事実を検証できれば誤りを指摘することが可能です。もう1つは事物の評価を一般的な常識とはかけ離れた定性的表現で示す誇張であり、たとえ一般的常識と照らし合わせて誇張を指摘しても「個人の認識の違い」という理由で誇張を否定される可能性があります。
<事例1>220万回リツイート
<事例1a>TBSテレビ『サンデーモーニング』2017/10/15
〔風をよむ ふたつのフェイク(ニセ情報)〕
橋谷能理子アナ:投票日まで1週間と迫った衆議院選挙。ところがインターネット上で虚偽の記事や情報、いわゆるフェイク・ニュースが氾濫し、大きな問題となっています。例えば、「新党の名前がロシアの会社に既に商標登録されていて党の代表が唖然」、「新党の公認候補を目指す野党議員が憲法改正は前から賛成だと変節」、先月30日には解散直前に立ち上がったA党に同調せず、新たに旗揚げした別のB党に合流したある候補者のフェイク・ニュースが書き込まれます。そこには事実と異なり、「A党に公認申請していた」とありましたが、この情報が瞬く間に拡散。ツイッターでの転載を意味するリツイート数は220万以上にのぼりました。ネット上で氾濫するフェイク・ニュース、その影響は政治や選挙の世界において今や見過ごせないものとなっています。(中略)。衆院選投票日まであと1週間、私達は氾濫するネットの情報にどう接すればよいのでしょうか。
関口宏氏:二つのフェイク、偽りの情報であるが、二つとも疑いをかけて見ないといけない。
橋谷能理子アナ:そういう時代になったんですね。
関口宏氏:嫌な時代と言えば嫌な時代かもしれないが。皆さんはいかがか。
大宅映子氏:インターネットは一人一人が発信できる。一人でタダで世界中に発信できる。裏付けなし。責任も取らない。軽いノリでポンとやる。それが瞬時に拡散する。誰がチェックするかと言っても誰かが入ったらそれも恣意的になる。基本的には個人が考えをもって防衛するしかない。今、新聞を皆読まなくなった。新聞だったら興味がないものまで目に入る。だけど今のネットの愛用者は自分の好きなところだけ。判断の幅が狭くなる。
<事例1b>TBSテレビ『サンデーモーニング』 2017/10/22
水野真裕美アナ:ここで一つ訂正があります。先週の風をよむでお伝えした選挙に関するあるフェイクニュースについて「リツイート数が220万以上にのぼった」とお伝えしましたが、正しくは「230以上」でした。お詫びして停止します。
TBSテレビ『NEWS23』『サンデーモーニング』は、ネットのフェイク・ニュースが220万回以上リツイートされたことを報じましたが、その後、実際には230回以上であることが判明しました。両番組は、230回のフェイク・ニュースのリツイートを220万回と約1万倍も膨らませたフェイク・ニュースで、インターネットの言論を十把一絡げにフェイク・ニュースと誹謗中傷したのです。まさにテレビによるインターネットに対する言論弾圧と言えます。むしろネット以上に「裏付けなし」「責任を取らない」「瞬時に拡散する」フェイク・ニュースを流して選挙を操作しているのが、このような一部テレビ番組です。
リツイート220万回は、もしも真実であれば、当時世界史上4位の記録となりました。少し調べれば、この値が偽であることは簡単にわかるはずでした。ちなみに、この回の『サンデーモーニング』の視聴率は17.6%(ビデオリサーチ)であり、関東地区だけでも300万を優に超える世帯が当番組を観たことになります。まさに「軽いノリでポンとやった」ことが、選挙を前にした日本の数%以上の世帯に拡散しました。テレビとインターネットではその伝達量は比べ物にならないくらい違うのです。
徹底的にネット言論を貶めたフェイク・ニュース特集の根幹を揺るがす数値の誤りをまったく説明もせずに、局アナに軽く訂正させて済ませてしまうTBSテレビのコーポレート・ガヴァナンスは不誠実そのものです。選挙前に偽情報を使って莫大な有権者を心理操作した行為は民主主義の冒涜であり、許されるものではありません。
<事例2>麻生財務相のぶら下がり会見
<事例2>衆・予算委員会 2018/02/22
柚木道義議員(国民民主党):実は、記者の皆さんの質問も、安倍政権になって、特にこの一年、さらにはこの直近三カ月、四カ月で、どんどん削られているんです。調べてみて、本当にびっくりしました。国民の皆さんは、ちょっとぶら下がり会見と着座の会見室での会見との違いがなかなかわからないかもしれませんけれども、現実、どういうことが起こっているか。麻生財務大臣が閣議後記者会見の場所、会見室でやったのが八回。しかし、その他はすべてぶら下がりで、官邸三階のエントランスで五十一回、国会内では二十回。つまり、七十一回はぶら下がり会見なんですね。どういうことなんですか。
麻生財務大臣:この質問は、ぶら下がりの記者会見と書いてあったところに国会内と書いてありますが、国会内の会見はすべて着席です。だから、資料の前提が違っていますよ。
柚木議員:違いますよ!
麻生大臣:資料が間違っているんだから、資料が間違っていると申し上げて何が悪いんですか。
国会議員が情報を捻じ曲げて誇張するのは、国民を騙す姑息な行為に他なりません。そもそも座って会見しようが立って会見しようが、質問が削られるわけではありません。麻生大臣は、たとえ「官邸エントランスにおけるぶら下がり会見」であっても、さらなる質問がないかを確認してから会見を終えるのが通例でした。
<事例3>日本はアジア最大級・最悪級のコロナ感染
<事例3>TBSテレビ『サンデーモーニング』 2021/11/14
〔海外で感染再拡大 日本の対策は?〕
青木理氏:(岸田政権は)それなりの第6波に対する対策が整備されるのかなと思いたいんですが、皆さんご存知の通り、これまでの政権もこういう色々な対策を打ち出すんだけれど、目詰まりがあったっていう形でなかなか実行に移されなくって結果的にアジアではご存知の通り最大級・最悪級の感染者が出ちゃったりとか、東京・大阪で医療崩壊状態になっちゃったわけですよね。
青木理氏は「アジアで最大級・最悪級の感染者が出た」という明らかな誇張を行い、日本政府を批判しました。図-1に示す通り、日本の感染者数(人口比)はアジア地域でも低く抑えられています。
図-1 アジア各国のコロナ陽性者数(人口比:2021/11/13時点の累計)
仮に人口比でない感染者数そのものであっても「アジアで最大級・最悪級の感染者」とするのは、一般常識に照らし合わせれば、あまりにも乱暴な表現であると考えられます(図-2)。
図-2 アジア各国のコロナ陽性者数(2021/11/13時点の累計)
ただし、「アジアで最大級・最悪級の感染者」というのは、あくまでも「青木理氏の認識」であると反論されれば、それは反証不可能であり、誤りとは完全に断定することはできません。
テレビの情報番組におけるコメンテーターの発言は、基本的に「言えば言い放し」であり、たとえこのような極めて悪質な誇張であっても定性的な表現である限り訂正されることはありません。視聴者はこうしてテレビに認知操作され、騙されているのです。
<事例4>感染の急増に歯止めがかからない
<事例4>TBSテレビ『サンデーモーニング』 2022/02/06
〔自宅療養が43万人 みなし陽性も〕
アナウンサー:1日の新規感染者数が10万人を超えた日本、感染の急増に歯止めがかかりませんが、世界にはマスク等の規制を撤廃する国も出始めています。
大きな数値を強調してはコロナの不安を煽るテレビの情報番組ですが、定性的な煽りはとどまるところを知りません。番組は「感染の急増に歯止めがかからない」と報じていますが、図-3に示す通り、実際には新規陽性者数の伸びは少なくなってきており、実効再生産数はピーク時よりも大幅に減少し、ほぼ1に近いところまで単調減少しています。
図-3 日本の新型コロナ感染状況(2022/02/05時点)
「感染の急増に歯止めがかからない」という表現は、常識的に考えれば不誠実な誇張表現ですが、実効再生産数が1を下回っていない以上、「増加が止まっていない」ことは事実です。したがって、これを「歯止めがかからない」と表現するのは番組制作者の表現の自由であり、たとえ小さな伸びであってもそれを「急増」と認識するのも番組制作者の精神的自由です。このように、報道の自由が完全に保証された日本では、制作者がいくらでも定性的な表現を誇張することが可能です。国民にできることは不誠実な認知操作を続ける悪質な情報番組を観ないことに限られます。