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Strawman fallacy
論敵の言説を不当に言い換えて、その点を批判する
<説明>
「ストローマン論証」とは、論敵の言説を不当に言い換えて、その言い換えた点について批判するという論点歪曲の誤謬です。この論証時に論敵が不在の場合、論敵は何も反論することなく攻撃を受けるだけの「藁人形」状態となります。「ストローマン論証」は騙す側が騙される側を案山子に騙される鳥とみなして騙しているのです。詭弁を使うマニピュレーターは、前提を意図的に歪曲することで自分にとって好都合な結論を導きます。
Aが言説SAを主張する。
BがAが主張する言説SAを歪曲した言説SA‘を偽造する。
Bが言説SA‘を偽と証明する。
したがって、Aの言説SAは偽である。
<例>
A:卵料理って本当においしいですよね。
B:いや、卵はコレステロールが高いので身体によくない。君は間違っている。
「卵料理はおいしい」とAが主張したのに対し、Bは「卵は身体によい」とAが主張したかのように歪曲し、そのことを前提にして「Aは間違っている」という結論を導いています。BはAの言説を歪曲して、その歪曲部分を批判しています。
なお、念のため、卵はコレステロールが高い食材と言えますが、少なくとも1日1個程度の摂取であれば、身体に悪いLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増やすものではないことが科学的に判明しています。
<事例1>安倍総理は息をするように嘘をつく
<事例1a>衆・TPPに関する特別委員会 2016/10/17
安倍内閣総理大臣:そもそも、我が党において、今まで結党以来、強行採決をしようと考えたことはないわけであります。党として考えたことはないわけでありまして、円滑に議論をし、そして、議論が熟した際には採決をする、民主主義のルールにしっかりとのっとっていくのは当然のことであろうと。
<事例1b>衆参・国家基本政策委員会合同委員会 2016/12/07
蓮舫議員(民進党):強行採決をしたことがない、よく息をするように嘘をつく。TPP、年金カット法案、カジノ、全部強行採決じゃないですか。ここは参議院です。良識の府の参議院は、みんな忘れない。去年の九月十九日の深夜、憲法違反の疑いのある安保法制を強行採決したじゃないですか。改めて、気持ちいいまでのその忘れる力を何とかしてくださいよ。
蓮舫議員は、安倍総理の「強行採決をしようと考えたことはない」という発言を「強行採決をしたことがない」と言い換えて、それを「息をするように嘘をつく」と批判しています。まさに息をするように嘘をついています(笑)
<事例2>セクハラという罪はない
<事例2a>麻生太郎財務大臣記者会見 2018/05/04
記者:テレビ朝日側が徹底調査を求めるというような文書を出したことについての見解と、与党の中からの「処分が遅きに失したのではないか」という声についてはどうか。
麻生太郎財務大臣:テレビ朝日は被害者保護を重視する姿勢をとられている。「誰がしたか」「これはパワハラではないか」とか、いろいろな説が言われていることは自分自身で知っているのだろうが、今回問題となった話は、1対1の会食なので、そのやりとりについて、財務省だけで詳細を把握していくのは不可能だ。いくら正確であっても偏った調査ではないかと言われる。被害者保護の観点から時間をかけるのは問題があると考えた。福田前次官の一連の行為によって、財務省なり国会の審議等に影響を与えたことに関して彼は「誠に申し訳ありません」と言って退官をしたのが事実なので、その意味で処分をした。何回も言うが、セクハラ罪という罪はない。殺人とか傷害とは違う。訴えられない限りは親告罪だ。少なくとも向こうにまだ言われていない。そこから先は本人の話だ。したがって処分にあたっては、少なくとも福田前次官の人権等も考えなければならない。そうすると福田前次官と向こうの人と両方やらないと公平さを欠くことになるので、今回のような対応をとらせていただいた。
<事例2b>麻生太郎財務大臣記者会見 2018/05/04
尾辻かな子議員(立憲民主党):それだけじゃないんですよ。(麻生太郎財務大臣の発言には)更にまたひどい発言があるんですね。「セクハラという罪はない」。これは、今でもセクハラという罪はないというふうに思われていますか。
麻生大臣:セクハラ罪はない。間違えないでくださいね、ここのところは。大事なところですよ。「セクハラという罪はない」なんて言ったことはありませんからね。間違えないでください。セクハラ罪はない。悪意で切れば「セクハラ、罪はない」と読めますからね。アサ・ナマタロウみたいな読み方ですよ。麻生太郎とは言わずにアサ・ナマタロウと言われたことがあるから。切り方の問題ですよ。セクハラ罪はないということを申し上げております。これは刑事罰として存在しておりませんから。これは訴える、訴えられる、そういったもので、これは両方で話し合われるということを正確に、法律用語としては正しく申し上げたんですけれども、悪意を持って途中で切られると「セクハラという罪はない」というふうに言いかえておられますから。セクハラ罪はないと一つのセンテンスで読んでください。
麻生大臣の「セクハラ罪という罪はない」の意味は、明らかに「セクハラ罪という罪」という同格で表現した刑事罰について「ない」という表現でその存在を否定するものでした。これは会見の文脈からも明らかです。しかしながら、麻生大臣の発言を是が非でも貶めたい尾辻議員は、この表現を「セクハラによる罪業という罪業はない」、すなわち「セクハラは罪(罪業)ではない」と曲解(歪曲)して麻生大臣を糾弾しました。これは、複数の解釈が可能な構文につけこみ前提を誤解釈することで無効な結論を導く[文法曖昧の誤謬]ですが、前提を言い換えてその点を批判しているという観点においては「ストローマン論証」であるとも言えます。
<事例3>女性は話が長い
<事例3a>JOC臨時評議員会 2021/02/03(朝日新聞の発言録より)
森喜朗東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長:これはテレビがあるからやりにくいんだが。女性理事を選ぶというのは、日本は文科省がうるさくいうんですよね。だけど、女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります。これは、ラグビー協会、今までの倍時間がかかる。女性がなんと10人くらいいるのか? 5人いるのか? 女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです。結局、あんまりいうと、新聞に書かれますけど、悪口言った、とかなりますけど、女性を必ずしも数を増やしていく場合は、発言の時間をある程度、規制をしていかないとなかなか終わらないで困るといっておられた。だれが言ったとは言わないが。そんなこともあります。私どもの組織委員会にも女性は何人いたっけ? 7人くらいか。7人くらいおりますが、みんなわきまえておられて。みんな競技団体からのご出身であり、国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですから、お話もシュッとして、的を射た、そういう我々は非常に役立っておりますが。次は女性を選ぼうと、そういうわけであります。
<事例3b>森喜朗会長記者会見 2021/02/04
記者(日刊ゲンダイ):「女性の話が長い」という発言については、ラグビー協会の特定の女性理事を念頭においたものではなかったのでしょうか。
森会長:一切頭にありませんし、ラグビー協会の理事会でどういう人が理事で誰がどう話したかというのは私は一切知りません。
記者(毎日放送):基本的な認識なんですけれども、やはり会長は「女性は話が長い」と思っているのでしょうか。
森会長:最近女性の話を聞かないからあまりわかりません。
森喜朗東京五輪組織委員会会長は「女性は話が長い」という女性蔑視の発言したとしてマスメディアやSNSから罪人のように非難され、会長職を辞任しました。しかしながら、森会長自身は「女性は話が長い」とは一言も言っておらず、実際には「女性は競争意識が強い」のでみんなが発言する結果、会議に時間がかかると説明しています。「女性は話は長い」は明らかにネガティヴな評価ですが、「女性は競争意識が強い competitive」は必ずしもネガティヴな評価ではなく、むしろビジネスのコンテクストではポジティヴな評価としてとらえることができます。森会長がこの「嬉しい悲鳴」を面白おかしく述べていることを悪意でとれば何とでも非難できますが、この一連の発言の結論自体も女性を評価するものに他なりません。