情報操作と詭弁ー論点の誤謬

ポリアンナに訴える論証

情報操作と詭弁論点の誤謬論点回避ポリアンナに訴える論証

ポリアンナに訴える論証

Fallacy of worse evil / appeal to Pollyanna

ポリアンナの原理(人は否定よりも肯定を選好しやすい)を悪用して論点から逃げる

<説明>

人は否定よりも肯定を選好しやすいことが知られています。例えば、過去の清算よりは未来の計画を、不快な活動よりも快適な活動を、悲観よりも楽観を好みます。これを【ポリアンナの原理 Pollyanna principle】と言います。「ポリアンナに訴える論証」とは、このポリアンナの原理を悪用して必要な論点を回避しようとするものです。

肯定的な行動によって否定的な行動の必要性が解消される場合には、肯定的な行動を選択することに合理性がありますが、解消されない場合には、両方の行動が必要となります。狡猾なマニピュレーターは、そんな事情はお構いなしに、自分に都合がよい論点を肯定的な論点と認定として有効化し、自分に都合が悪い論点を否定的な論点と認定して無効化するのです。

誤謬の形式

論者Aが論者Bに論点IAに関する質問QAをする。
論者Bがネガティヴな論点IAより、ポジティヴな論点IBを優先するよう主張する。
質問QAが成立しない。

<例>

<例1>

A:明日は雨が降る予報だけど、それでも山登りに行くの?
B:当り前だ。雨なんかいちいち気にしてたら何もできない。

<例2>

A:外出するのはいいけど、エアコン消してから行ってね。
B:君はそんな小さなことばかり言っているからダメなんだ。

<例3>

A:あなたは昨日も今日も遅刻してみんな迷惑してます。みんなに謝って下さい。
B:まだそんなこと言っているのか。明日遅刻しなければ問題ないだろ。

いずれの例も肯定的な行動が否定的な行動の必要性を解消していません。

<事例1>民主党政権の宿題

<事例1>衆・厚生労働委員会 2016/11/02

中島克仁議員(民進):今回提出されている年金カット法案、昨日質疑入りしましたが、今後、そういった試算を改めて出すことも含めて、丁寧に、また同時に、国民の皆さんに理解を求めるべく工夫をしながら進めていくつもりがあるのかどうか、まず御答弁いただきたいと思います。

塩崎恭久厚労大臣:年金法案で、きのう一番多くの指摘があったのは、民主党政権下の宿題であり、それを粛々と「未来への責任、改革は先送りしない」という民進党の綱領にあるような哲学でやっているわけであります。

中島議員:民主党政権という話が出ましたが、私は二〇一二年初当選です。民主党政権は経験しておりませんし、その後、二〇一四年に民主党、そして今、民進党。我々は前向きな話をしています。過去どうだったかというよりは、これから年金制度をどうしていくのかということを、前向きな議論をしていただきたい。

中島議員は、前向きな論点を掲げることで、民主党政権の失政という後ろ向きな論点を回避しています。しかしながら、政府には政策の継続性が要求されるため、民主党政権の失政は政権交代した安倍政権に多くの点で負の遺産となり、論点を避けて通ることができなかったのです。

なお、過去を検証することはけっして無意味ではなく、未来の帰納的な予測に貢献します。過去の検証なしに「未来をどうしていくか」を議論した場合には演繹的な予測に頼らざるを得ないため、根拠のない空論となることが懸念されるのです。

<事例2>再エネ拡大と原発停止

<事例2>朝日新聞 2023/02/06

■社説:エネルギー激動の時代 持続可能な社会へ変革急げ

世界のエネルギー環境が半世紀ぶりの激動期を迎えている。ロシアのウクライナ侵略で天然ガスなど化石燃料の価格高騰と供給不安が広がり、70年代のオイルショック以来の「エネルギー危機」とも称される。

一方で、地球温暖化による「気候危機」への対応も待ったなしの課題だ。この二つの危機を同時に乗り越え、持続的な社会システムへと向かえるのか。それが問われる局面だ。

主要国は、次々と動き出している。化石燃料からの脱却が遅れてきた日本も、歩みを速めなければならない。

(中略)

二つの危機は、社会の構造を変え、持続的な経済成長につなぐ好機にもなりうる。それを現実のものにしようと、新たな競争の時代が始まっている。

日本はどう臨むのか。まず基本にすべきは、新技術の普及をはじめ内外で変化する情勢に機敏に応じ、有用な成果を積極的に取り込む姿勢だろう。

この点で日本には反省がある。2000年代に再エネの革新が世界で広がる中で、国内の本格的な取り組みは11年の福島第一原発事故の後まで遅れた。政府も産業界も、慣れ親しんだ化石燃料や原子力に重きを置くあまり、抜本的な変革に背を向けてきたのではないか。その轍を踏むことは許されない。

昨年末、政府は「GX(脱炭素化)実現に向けた基本方針」と今後10年間の工程表をまとめた。官民で150兆円を投資する想定だ。脱炭素化に本腰を入れること自体は当然だが、手放しでは評価できない。

新方針は、再エネと原発の「最大限活用」をうたう。ただ原発は難題が多く、主役にはなれない。他方、再エネと省エネは、今の技術でも拡大の余地が大きい。これらを主軸に据え、普及に向けた課題の克服に力を注がなければならない。

朝日新聞は、再エネをポジティヴなエネルギー、化石燃料と原子力をネガティヴなエネルギーと認定した上で、再エネの拡大を強く主張しています。しかしながら、現在の電力不足と電気料金の高騰とは、日本のマスメディアが無責任に推奨してきた計画性のない浅はかな再エネ至上主義にあります。

高価な長期蓄電システムが十分な存在しない中、供給不安定な再エネによる発電をバックアップしているのは化石燃料による火力発電ですが、致命的な問題として、このバックアップ電源の容量が再エネ拡大に追いついていないのです。そればかりか、電力自由化の価格メカニズムによって、再エネはバックアップ電源である石油火力発電をいくつも廃止に追い込んでいます。その結果として生じた電力の供給力不足によって卸売電力取引所の流通量が減り、電力価格が高騰しているのです。

さらには、安価でクリーンな電源である原発の停止により、化石燃料がベースロード電源としても利用され、CO2の排出を増大させています。つまり、再エネ拡大と原発停止は、電力不足と電気料金の高騰を抑止できないばかりか、地球環境にも負荷を与えています。

日本のマスメディアは、「再エネ拡大・脱源発」という浅はかな美辞麗句で国民を洗脳し、その生活を困窮させているのです。これはまさにポリアンナの原理の悪用に他なりません。