情報操作と詭弁 > 論点の誤謬 > 論点歪曲 > 違いのない区別
Distinction without a difference
自説に都合よく同一の事物を無理やり区別して結論を導く
<説明>
「違いのない区分」とは、違いのないものを無理やり区別して結論を導くという論点歪曲の誤謬であり、ストローマン論証の一つです。詭弁を使うマニピュレーターは、前提を意図的に歪曲することで自分にとって好都合な結論を導きます。
P1とP2に違いがあることを前提にして結論Cを主張する。
※実際にはP1とP2に違いはない。
<例>
<例1>
店員:ご注文どうぞ?
客:えーと、ラーメン下さい。
店員:うちは中華そばしか置いてませんけど。
日本語の慣習上、「ラーメン」と「中華そば」には違いはありません。もし店側に何らかのこだわりがあるのであれば客に説明するのが合理的です。
<例2>
部長:今日も遅刻か。
部下:通勤途中で忘れ物に気付いて家に取りに帰ったので遅れました。
部長:今日も忘れ物をしたのか。
部下:忘れ物を取りに帰って持って来たので忘れ物はしていません。
部下が忘れ物をしたことに違いはありません。「違いのない区別」はしばしば、【弁解 excuse】(=加害を認めるが責任を認めない)や【正当化 justification】(=責任を認めるが加害を認めない)に悪用されます。
<事例1>立憲民主党と民主党は別の政党
<事例1>週プレNEWS 2018/10/26
枝野幸男代表(立憲民主党):そもそも私の認識では、立憲民主党は民進党(民主党)から分かれた党ではなく、ゼロから建てた「新しい家」。もちろん、民主、民進の両党は私に貴重な政治体験をさせてくれた場ではありますが、昨年10月2日で”過去の歴史”になりました。
枝野代表の主張する通り、立憲民主党は2017年10月に新たに届出された政党であり、民進党(民主党)とは法律上は別の政党です。しかしながらその実体は、民主党・菅直人内閣の主要メンバーが党の主要な役職をほぼ独占するものでした。
- 枝野幸男代表(菅内閣・官房長官)
- 長妻昭代表代行(菅内閣・厚労大臣)
- 辻元清美副代表(菅内閣・首相補佐官)
- 蓮舫副代表(菅内閣・行政刷新大臣)
- 福山哲郎幹事長(菅内閣・官房副長官)
- 菅直人最高顧問(菅内閣・総理大臣)
- 海江田万里最高顧問(菅内閣・経産大臣)
このような政党ロンダリングによって、メンバーが「悪夢の民主党政権」と呼ばれる過去を葬り去るのは、国民に対する背信行為に他なりません。
ちなみに「悪夢の民主党政権」が無責任に行った原発停止とFIT制度により、現在の日本のエネルギーシステムは同時同量を安定的に確保することが困難な事態に陥っており、国民は酷暑あるいは厳寒時に生命を失う停電リスクに晒されています。また、化石燃料輸入のため、莫大な国富が海外流出しているとともに、国民は極めて高い電気料金を支払わされています。「悪夢の民主党政権」の負の遺産は現在もなお国民生活に深刻な負の影響を与え続けているのです。
<事例2>Dappi問題とCLP問題
<事例2a>東京新聞 2020/10/13
■野党攻撃ツイッター「Dappi」が自民党と取引?
正体はIT企業 ネット工作まん延かツイッター上で、野党議員や、政権に批判的なマスコミに対し、誹謗中傷めいた批判を展開してきたアカウント「Dappi」。匿名のため正体はまったく不明だったが、その攻撃を受けた立憲民主党の小西洋之参院議員が起こした発信者情報開示訴訟により、このアカウントが都内のIT関連企業の法人のもので、同社の主要取引先が自民党だったことが分かった。この不気味な構図から見えてくるものはいったい何か。
(中略)
果たして自民党はDappiに関与していたのか。ネット上の言説に詳しい評論家の古谷経衡さんは「個人的な感触としては、クロだと思う」と話した。Dappiが投稿した時間がほとんど限定されているためだ。「ネトウヨ業界は、お金以上に自民党への愛がある。本当に好きだったら四六時中、つぶやくはずだ」
前出の津田さん(津田大介氏)はこう語る。「ネットでプロパガンダのように発信したり、Dappiが情報をゆがめていたことは間違いない。これは健全な民主主義を阻害する大問題だ」
野党・マスメディアを批判していた匿名ツイッターアカウント「Dappi」が自民党と取引があるIT企業と関係することが判明すると、野党・メディアは「世論操作」をキーワードにして批判を展開し始めました。
<事例2b>しんぶん赤旗(日本共産党) 2021/11/09
■「Dappi」疑惑 自民党本部は国民に説明せよ
政党や政治家の宣伝や広報は、事実に基づきオープンに行われることが最低限のルールです。政権党が巨額資金を投じフェイクニュースを広げる世論操作をしていたとするなら、民主主義の土台を掘り崩す大スキャンダルにつながります。
<事例2c>社会新報 2021/11/17
■「Dappi」疑惑の追及を-自民党が野党攻撃ツイートに関与し世論操作-
照屋寛徳議員(社会民主党):自民党本部が政治資金を使い、同党事務総長の親族企業に野党への誹謗中傷ツイートをやらせ、世論操作をしていたとなれば、民主主義を阻害する重大な事態だ。国会での徹底解明が求められる。
しかしながら、「Dappi事案」はあくまでも疑惑であり、世論操作の証拠はありませんでした。まるでモリカケ事案のように【もっともらしい物語 just-so story】を創作して印象操作を展開したのです。
<事例2d>毎日新聞 twitter 2021/11/15
匿名ツイッターアカウント「Dappi」が「自民党によるネット世論操作の一環ではないか」などと取り沙汰されています。ただ、現段階で証拠は見つかっていません。
そんな中、公共メディアを標榜し、Dappi問題を含めて自民党を批判しているインターネットメディアの「Choose Life Project (CLP)」が、なんと立憲民主党から資金提供を受けていたことが判明したのです。しかもその事実を隠し、公共メディアを名乗って市民から集金を行っていました。
<事例2e>Choose Life Projectのあり方に対する抗議 2022/01/05
津田大介氏:私たちはインターネット上の公共メディア「Choose Life Project」が制作する番組に司会やゲストとして出演してきました。
この度私たちの調査により、2020年春から約半年間にわたり大手広告会社や制作会社をはさむ形でCLPに立憲民主党から「番組制作費」として1000万円以上の資金提供があったことが確認されました。報道機関でありながら、特定政党から番組制作に関する資金提供を受けていたことは、報道倫理に反するものです。公正な報道の根幹を揺るがす行為であり、またその事実を出演者及びクラウドファンディングの協力者、マンスリーサポーターなどに一切知らせていなかったことは、重大な背信行為です。(中略)
現時点で2つの重大な問題があります。
①「公共メディア」を標榜しつつも、実際には公党からの資金で番組制作を行っていた期間が存在すること
②その期間、公党との関係を秘匿し、一般視聴者から資金を募っていたことCLPがこれらの点を視聴者・サポーターならびに出演者に秘匿しながら活動してきたことに、深い失望を覚えます。また著しいコンプライアンス/ガバナンス意識とモラルの欠如に対して、報道・メディアに携わる者として強く抗議します。
事案の発覚後、立憲民主党・西村智奈美幹事長は当該事案に関する調査を行い、会見でその結果を公表しました。
<事例2f>立憲民主党・西村智奈美幹事長会見 2022/01/12
西村智奈美幹事長(立憲民主党):先週金曜日の代表の記者会見でもご質問のございました、チューズ・ライフ・プロジェクト(Choose Life Project)に関する立憲民主党の支援という件について、旧立憲民主党会計に関する決裁資料などを確認し、また、当時の福山幹事長及び事務局に聞き取り調査を行いましたので、その結果をご報告いたしたいと思います。
まず、最初に、広告代理店並びに制作会社を通じて2020年3月から8月までの分として4回の請求が党にありまして、同年8月から10月にかけて合計1500万8270円の支払いが立憲民主党から広告代理店に対してなされておりました。最後の支払いについては、広告代理店から9月1日の請求でありまして、10月9日に支払いがなされています。旧立憲民主党が9月に解党しておりますので、この請求については新立憲民主党から福山前幹事長の決裁において支払いが行われておりました。
立憲民主党がCLPに対して支援を行った経緯は、福山前幹事長の出されたコメント及びCLPの佐治共同代表のコメントにおいて触れられており、また、聞き取り等の私が行いました調査において同じ内容であるということを確認いたしました。すなわち、フェイクニュースや余りに不公正な差別が横行する状況に対抗するための新しいメディアをつくりたいというCLPの考え方に福山前幹事長が共感し、番組制作・運営のための支援を行ったということ。そして、ネット配信の内容や出演者等、番組編成に関して党が影響を与える意図はなく、実際に一切番組内容等に関する要求は行っていないこと。以上は確認をいたしました。(中略)
『夕刊フジ』村上記者:自民党のいわゆる「Dappi」の疑惑を立憲民主党の議員さんたちがかなり追及されていたということがあったが、今回の件を見るとまさに立憲民主党のモラルが問われる事態になっていて、まさにブーメランがまた炸裂してしまったのかなというふうに言われているが、こういった毎回いろいろなところでブーメランが突き刺さっているという党のありようについてはどういうふうにお考えになるか。
西村幹事長:今回の党からCLPに関する支出に関して申し上げれば、先ほど申し上げましたが三つの点から適切とは言えなかったと考えております。今後は支出のチェックを組織として確実に実施するなどし、また、党内ガバナンス機能の点検を行っていきたいと考えております。
『夕刊フジ』村上記者:自民党の「Dappi」の問題については、これは引き続き、今回の問題は今回の問題、「Dappi」の問題は「Dappi」の問題という形で追及するのか。その追及が弱まってしまうのではないかと思うが、このあたりはどうか。
西村幹事長:「Dappi」の問題は、これは議員らに対する違法な誹謗中傷発言をしていたツイッターアカウントの運営者が特定の政党から支援を受けていたのではないかということ、また、発言内容についても関与して世論操作を行っていたのではないかという疑念を受けている事案であるというふうに認識しております。今回、党とCLPの関係で申し上げれば、一切番組内容には関与していなかったということ、また、CLPで報道されたコンテンツの中では違法な誹謗中傷発言はなかった、世論操作とも無関係であったということですので、全く事案としては異なるものと認識しています。
以上が事態の経過ですが、この事案を考えるにあたって留意が必要なことが2点あります。まず、日本の政党が一部業務を私企業に外注することには何の問題もないということです。そしてもう一つは、日本の政党が一定の広報業務を私企業に外注することにも何の問題はないということです。したがって、自民党が一部業務をIT企業に外注することには何の問題もありません。さらに、規約を守る限り、誰もが利用可能なSNSを通して企業の構成員が政治的発信を行うことにも何の問題もありません。このDappiアカウントの発信を共産党や社会党などの公党が、証拠もなく「世論操作していたなら民主主義の阻害」としたのは、個人の精神的自由の行使に不当な圧力を加える言論弾圧であり、憲法が保証した表現の自由の侵害に他なりません。
一方、立憲民主党が民間メディアに対して「資金援助」していたことは、自民党がIT企業に対して「取引」していたことと比較すれば、世論操作の疑いが格段に高いと言えますが、けっして違法ではありません。民間企業と公党の関係という観点で見れば、まったく同じです。
ここで、問題となるのは、同じ関係であるにも拘わらず、西村幹事長が「世論操作とも無関係であった」ということを根拠の一つにして「全く事案としては異なるもの」とDappi問題とCLP問題を区別したことです。これは明らかな歪曲であり、「違いのない区分」に他なりません。
加えて、「世論操作」という観点では、立憲民主党の行為は非常に悪質です。Dappiアカウントが任意のSNSアカウントであるのに対し、CLPは市民の資金で運営される公共メディアを名乗っていました。津田氏の言う通り、CLPが立憲民主党の資金が混在する中で、公共メディアを名乗って市民から資金を集めていたことは、市民の善意を裏切る決定的な背信行為であり、民主主義の危機です。立憲民主党は、この背信行為と民主主義の危機を当然知っていながら国民に黙っていたのです。
なお、西村幹事長が説明の中で「立憲民主党」を「旧立憲民主党」と「新立憲民主党」に区別していることも「違いのない区分」に他なりません。新立憲民主党は旧立憲民主党の議員を主体として構成されており、旧立憲民主党の責任を受け継ぐのは当然です。もしも新立憲民主党が自ら標榜する民主主義政党であるのならば、新立憲民主党の執行部は旧立憲民主党メンバーの意思を主体とする代表であると言え、その旧立憲民主党メンバーの代表であった旧立憲民主党の執行部の責任を免れることはできません。西村幹事長の発言は、まさに政党ロンダリングであり、国民をバカにしたこと同値です。